ECLIPSE_202301_26-29
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くところが壁になり、思うように進路を確保できない。それを尻目に有力馬のダノンベルーガ、シャフリヤール、ヴェルトライゼンデは先に抜け出しに成功。万事休すか─。しかし、残り200m地点で馬1頭分の狭いところにVルートを見いだすと、そこからが圧巻だった。ひるむことなく豪腕の手綱に反応すると、まさに目の覚めるような切れ味を発揮。一瞬で他馬をかわし去り、大輪の花を咲かせてみせた。引き上げてきた殊勲の鞍上は、「馬がトラブルを避けてくれました。馬のおかげです。前があいた時はホッとしましたし、勝てたと実感しました。とにかく馬が優秀でした」と高く評価。デビューすらも怪しかったエイシンフラッシュ産駒が、ついには世界の名手に絶賛されるまでに成長したのだ。      馬に携わる全ての人間が、その思いを渡辺調教師は「ヒヤヒヤしました」と、担当の樫原仁久助手も「終わったと思いました」と回顧する。いや、関係者だけではなく、誰もがそう思っただろう。しかし、その不利をはねのけたのは〝諦めない〟という思い。育成段階で度重なる故障に見舞われても、この胸に秘めて馬づくりを進めてきた。そして、さまざまな障壁を乗り越えながら、紆余曲折を経て、この舞台へ出走できた。そのお返しとばかりに、今度大敗しても驚けない直線の不利に、はヴェラアズールが〝諦めない〟という気持ちで最後まで力を振り絞り、そして手にした栄光─。そう思える執念の勝利だった。キャリアの序盤にダートを使われてきたジャパンC覇者にはスクリーンヒーローやテイエムオペラオー、エルコンドルパサーなどがいるが、その年の1月までダート、それも2勝クラスの身だった馬が勝つのは、異例中の異例だ。近親にて、トールポピーやアヴェンチュラなどの芝G1馬がいる血統でも、焦ることなく、脚元を考慮して慎重に成長を促してきたのが奏功した。「もともとトモが薄かったんですが、芝を使いだしたあたりから筋肉がついてきました」と樫原助手。そして、「ストレスが掛からないように、息抜きの時間も大事だと思うので。カリカリしないようにさせてあげたいと思ってやっています」と、普段からメンタル面を大事に接してきた。丁寧な馬づくりを心がける同助手も、間違いなく戴冠の立役者だ。6歳を迎えたヴェラアズールだが、渡辺調教師は「まだまだ良くなってくる感じがあります。ムーアもそう言っていました」とさらなる進化の余地を伝える。芝では、ジャパンCまで全てのレースで上がり最速をマークしているように、現段階でもとてつもない脚力を秘めているが、どれほどまで良くなるのか末恐ろしい。 「いつもこちらの想像の1つ上を行く走りをしてくれます。まだまだそういう期待に応えてくれると思いますね。ジャパンCを勝ったからには、海外にも行ってみたいです」と野望を語る。指揮官はかねてからこう話していた。 「G1を勝ちたいです。あとは、結果は当然ですが、ファンの方々に愛される馬を管理したいですね」スターダムをのし上がり、師の夢を叶えたヴェラアズール。チーム一丸で描いたG1ホースへの道のりは、多くのファンを魅了し、勇気を与えたに違いない。青い帆を目いっぱいに広げ、大海原へと旅立ったシンデレラボーイの夢物語は、まだまだ続いていく。29Writer profile 山本 裕貴 Yuki Yamamoto1994年生まれ、兵庫県出身。デイリースポーツ記者。2018年4月に入社後、公営競技(ボートレース)担当を経て2020年1月から中央競馬担当(栗東)。週末の紙面では「ユウキ」の名前で穴予想を掲載中。趣味は野球観戦、日本株投資、ウィッフルボール。オリックス・バファローズファン歴15年。

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