シーザリオがアメリカンオークスを制覇し、まさにアメリカンドリームを成し遂げた頃の私は、重圧に胃が悲鳴をあげていました。ストレス…とは呼びません。装蹄師冥利に尽きる重圧です。シーザリオの活躍した2005年は同世代のディープインパクトを象徴として、ハーツクライ、ハットトリック、カネヒキリ、カンパニー、リンカーン、ヴァーミリアン、フサイチパンドラ、デルタブルース、ノボトゥルー、サンライズバッカス、サイレントディール、ディアデラノビアといった一流馬の面々を担当。海外を含めると、GⅠを10勝もさせてもらった1年でした。特に、ディープインパクトの蹄壁の薄さは接着装蹄でカバーし、シーザリオの繋靱帯も細心の注意を払わねばりました。が「この馬はGⅠを必ず獲れる」と惚た。しかし、前途洋々のシーザリオとた。さらに海外へ挑戦したアメリカンズ・シャンパンのアドバイスを参考に、し、直線はトゥ(スパイク)で爆発さならず、この2頭は最高のサラブレッドであると同時に、装蹄師にとってはやり甲斐とともに重圧をも与えてくれるほど装蹄に難しさを抱える馬でもあ振り返るに、シーザリオはトレセンに入厩した当初から、担当の鈴木助手れ込むなど、名だたる名馬のいる角居厩舎のスタッフが太鼓判を押す通り、確かに一流のオーラを発していましはいえ、肢勢からの狭窄蹄は悩ましい問題で、デビューから年をまたぎグンと成長しだしたと同時に、繋靱帯に無理がかかりはじめました。桜花賞からオークスに向けては、天性のバランスの良さから脚元は落ち着いていましオークスにおいても脚元は良い状態を維持できていましたので、カリフォルニアを拠点とする友人の装蹄師、ウェハリウッドパーク競馬場のコーナーで滑らないようトゥアウターリム蹄鉄を選択。コーナーでグリップを効かせるのがアウターリムで、スタミナを温存せるのが描ける青写真。それが現実のものとなり、興奮と喜びで表彰式後のことはあまり覚えていません。レース後、馬房に戻って脚元をチェックしても問題なかったので安堵したのですが、帰国後に放牧先から繋靱帯炎を発症したとの連絡が届きました。結局、そのままトレセンへ帰ってくることはなく、引退の発表。当時、「何が悪かったのか…」と、自問自答と反省ばかりでした。どうです?私が胃潰瘍になったのも、こうしてシーザリオとディープインパクトが関わっているのがおわかりいただけたでしょう(笑)そうそう、シーザリオの馬名は会員さんが名付けして決まったと聞きました。「男装の麗人」…どうりで、その子たちはエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアと牡馬の活躍馬の多くが種牡馬としても成功していて、偉大な牝馬になりましたね。ことオークスで言いますと、7頭の担当馬が制してくれました。その中でもエアグルーヴ、ジェンティルドンナ、またオークスではないのですがダービー馬のウオッカ、それぞれが個性的で、ここにもちろんシーザリオも入るわけですが、強かったのは勿論、美しく進化したサラブレッドだと思いました。彼女と出会えたことは、私の最高の幸せでした。ありがとう、シーザリオ! 7Columnist profile 西内 荘 So Nishiuchi1956年高知県出身。福永洋一に憧れ、競馬の世界へ。JRA最優秀装蹄師賞受賞(9回)。担当馬のGⅠ勝利数131勝。日本初の接着装蹄をディープインパクトへ施した先駆者。2001年からスポーツニッポン大阪版土曜紙面でコラム「カリスマ装蹄師のささやき」を連載中。WEB番組「競馬のおはなし」ではゲストを迎えて競馬トークを行うなど、マルチに活躍中。アメリカンオークスにて。手入れ中のシーザリオとその横で脚元を見る筆者(撮影 平松さとし)~Forever CESARIO~vol.5美しいサラブレッドの進化形究極のシーザリオ
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