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 2月27日。グリーンチャンネルの中継がパドックに入り、キャスター席にいた私も少しだけ落ち着いたところに、スタッフが駆け込んできた。 「シーザリオが死んでしまったみたいです…」その後も普段通りに番組は進んでいった…はずなのだけれど、訃報が飛び込んで来てから、色々な出来事が、想いが頭の中を駆け回って仕方なかった。私にとって、シーザリオは一番と言ってもいい思い出の馬なのだ。2005年5月25日、オークス当日。当時、予備校生だった私は平日に授業を受け、日曜日は息抜きだと言い訳をつけて競馬場に行く生活を始めていた。まだ馬券を買える年齢ではなかったけれど、馬たちを見るだけで少し込み入った心がキレイになっていくように感じた。その日は晴れの発表でも、少し薄曇りの空だったと記憶している。オークスの出走馬がパドックに登場すると、一際美しい黒く光る馬体に目が釘付けになった。それがシーザリオだった。前を歩くコスモマーベラスを追い抜かんと、パドックの外を勢いよく歩く姿の力強いこと。気が付けば自然と、隣にいたオジサンとシーザリオの美しさについて語ってしまっていた。レースはゴールの少し手前で観戦した。大方の予想よりもさらに後ろからの競馬になったシーザリオが、直線入口で前をこじ開けるように末脚を伸ばし始めた。同じキャロットの勝負服のディアデラノビアと併せるように上がり、図ったようにゴール前でエアメサイアを差し切るその姿。冗談抜きで鳥肌が立った。なんて美しくて強い馬なんだ!福永騎手の弾ける笑顔と大きなガッツポーズを背に勝ち戻る姿も、また颯爽としていた。ずっとこの馬を応援していこうと、心に決めた。アメリカンオークスの当日は早起きしてテレビ観戦。3角手前で一気に先頭に立ってしまった姿に、また驚かされた。直線も突き放す一方。現地のアナウンサーに「ジャパニーズスーパースター」と称される圧勝劇。レース後のインタビュー、大胆なレースをした福永騎手が覗かせたシーザリオへの「自信と信頼」もまた眩しかった。気が付けば予備校に行くのも忘れ、見入ってしまっていた。ただ、結果的に彼女の最後のレースを目に焼き付けておけてよかったと思う。母となったシーザリオからエピファネイアが出た。そのエピファネイアの初年度産駒から昨年、牝馬3冠を制したデアリングタクトへ血は繋がった。2頭とも府中の芝2400mのGⅠを、シーザリオがオークスを制した時と同じ「4番」のゼッケンをつけて勝利した。シーザリオの血にはそんなドラマ性まで遺伝しているのかもしれないと思うと、またあのオークスの日の思い出が尊いもののように感じられるのだ。グリーンチャンネルの中継では急遽、オークスの映像とともにシーザリオの訃報を伝えることになった。大好きだった馬の悲しい知らせを、まさか自分が放送でお伝えすることになるとは。立場的に、すべての馬に平等でいるのが仕事であることに違いはないけれど、どうしてもダメだった。原稿を読む声は震えてしまっていた。私の「競馬人生」において、与えてくれたものがあまりにも大きい馬だった。先に書いた通り、素晴らしい血はエピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアによってこれからも繋がっていくし、シーザリオ自身が2020年に残した最後の産駒に、父・ロードカナロアの牝馬がいると聞く。いちファンとして、残された血を目一杯応援していきたいと思う。ありがとう、シーザリオ。合掌。April 2021 vol.23138Columnist profile 小堺 翔太 Shouta kosakai東京都出身。タレント。NHK『あさイチ』をはじめ、リポーター、ラジオパーソナリティー、現在グリーンチャンネル「中央競馬全レース中継」日曜前半キャスター、「アタック!地方競馬」MCとして出演中。5歳の頃、テレビで見た競馬中継で馬の姿に魅せられ、祖父に連れられ中山競馬場へ行って以来の競馬好き。2013年より競馬キャスターとしての仕事をスタート。アメリカンオークスの直線。後続に4馬身差の圧勝だった      ~Forever CESARIO~ vol.2 シーザリオの思い出

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