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シーザリオの血に流れる偉大なる母の力冒頭から私事で恐縮ですが、我がプロフィール欄のとおり、私はライフワークで『サラブレッドの血筋』という書物を作成しています。サブタイトルを「偉大なる母の力」とした第3版はこの原稿を書いている数日前に製本発注したので、この寄稿が皆様の目に触れる頃には発刊できているかなと思っていますが、そこには今世紀(2001年以降)生まれで昨年末までの世界のGⅠレースに勝った馬を網羅した母系樹形図を掲載しています。その中で、非常に興味深い事実に遭遇しました。我が樹形図を眺めると複数のGⅠ馬を産んだ牝馬は271頭いるのですが、そのうち実に208頭(77%)は違う種牡馬を相手に複数のGⅠ馬を産んでいるのです。このように交配相手を選ばずにGⅠ馬を産む牝馬を樹形図中では太字にしたのですが、当然のことながさらら、にシ、ーこのザ樹リ形オ図は太中で字3です頭(以図上1のG)。Ⅰ馬を産んだ牝馬をリストアップすると図2(※脚注)のとおりなのですが、ご覧のように、シーザリオのような全て父親が違う例には何か計り知れない「母の力」を感じてしまいませんか? にルペルカーリアがGⅠを勝ったならば、私の樹形図レベル(つまり2001年以降生まれの産駒が対象)ではありますが、全て違う種牡馬を相手に4頭のGⅠ馬を産んだ、世界初の例ということにもなるのです。オリエンタルアートが同じステイゴールドを相手にドリームジャーニーとオルフェーヴルを、ラヴズオンリーミーが同じディープインパクトを相手にリアルスティールとラヴズオンリーユーを産んだことは、確かにその血の相性が良かったのかもしれません。しかし、前述のように違う種牡馬を相手にも複数のGⅠ馬を産んだ牝馬の数があまりに多いという事実から、その牝馬自身のポテンシャルが高ければ、優秀な仔を産むのには交配種牡馬をわれわれが思う以上に選ばないというのが実際なのかもしれません。ここでちょっとだけ、堅苦しい生物学の話に付き合ってください。私は母系の重要性のキーワードのひとつに「ミトコンドリア」を挙げています。これは細胞内の小器官であり、人も馬も「呼吸」で酸素を取り込むことにより体内の炭水化物、脂肪、タンパク質などからエネルギーを取り出して、体内でエネルギーの分配を行う物質であるアデノシン三リン酸(通称「ATP」)を合成しているのですが、この合成場所がミトコンドリアちなみ1-e1-e1-l1-m1-n1-w2-j4-g5-h8-c9-e9-f1112-c12-d16-a16-h17-b1820-a23-bなのです。つまり、スタミナ源の生産工場なのです。細胞において、通常の遺伝子は核の中のDNAに存在しますが、ミトコンドリアも独自のDNAを持ち、そこには少数ながらも遺伝子が存在し、そのミトコンドリアの遺伝子は母親からのみ授かるのです(=母性遺伝)。そして、もうひとつ忘れてはならない事実があり、遺伝子の質というより量の観点に立つと、ミトコンドリア自体の形成や機能維持に関与しているのは、ミトコンドリア自身の遺伝子よりも部外者たる核の遺伝子の方がはるかに多いのです。以前読んだ『ニュートン別冊 とゲノム(増補第2版)』には、「オリンピック選手のミトコンドリアDNA型は、特徴的な型にかたよっていた」とありました。違う種牡馬を相手に複数のGⅠ馬を産む牝馬があまりに多い事実を鑑みると、サラブレッドにおける母系の重要性を主張する根拠として、母性遺伝に基づく「ミトコンドリア遺伝子説」が有力に思えてきませんか?遺伝April 2021 vol.23136図2図1(※) 左側の付記はファミリナンバーです。また、あくまで今世紀生まれのGⅠ馬が対象なので、偉大なるUrban Sea等は図2には含んでいません。〈GⅠ馬を3頭産んだ牝馬〉〈GⅠ馬を4頭産んだ牝馬〉South NinaClaba di San JoreSilk and ScarletHalfway to HeavenAmerican WhisperPerizaMonroe MagicHistoriaIn CloverBeauty Is TruthGreen RoomMagnificient StyleYou'resothrillingハルーワスウィートUff-UffシーザリオQuanto CarinaプリンセスオリビアLava GoldDelta PrincessLeslie's Lady2-d3-mKossanovaBrava父は全て同じ全て違う父全て違う父全て違う父うち2頭は同じ父全て違う父うち2頭は同じ父父は全て同じうち2頭は同じ父父は全て同じうち2頭は同じ父うち2頭は同じ父父は全て同じうち2頭は同じ父うち2頭は同じ父全て違う父全て違う父うち2頭は同じ父うち2頭は同じ父全て違う父全て違う父うち2頭は同じ父うち2頭は同じ父       Pia 黒 1964 Principia 鹿 1970  Querida 黒 1975   Be Discreet 鹿 1981    Sarabah 鹿 1988     Miss Polaris 鹿 2001      Fascinating Rock 鹿 2011 (IRE)   キロフプリミエール 鹿 1990    シーザリオ 青2002 (JPN)      エピファネイア 鹿 2010 (JPN)     リオンディーズ 黒 2013 (JPN)     サートゥルナーリア 黒 2016 (JPN)Promessa 鹿 1969 La Trinite 栗 1976  Regal State 栗 1983   Gout de Terroir 栗 2004    Elusive Kate 鹿 2009 (USA)  Salon Prive 鹿 1991   Queen's Wood 鹿 2008    True Timber 鹿 2014 (USA)(※) 下線は今世紀生まれのGⅠ馬~Forever CESARIO~ vol.1

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