ECLIPSE_202401_18-21
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のがわかりました。富士Sでは強い勝ち方をしてくれて、失っていた自信を取り戻せました」もう一度、ナミュールを信じてG1を目指そう。そう思っていた矢先に起こったムーア騎手の落馬は、平川厩務員を落胆させた。G1当日に騎手が変わるなんて、運がない。そう思った。平川厩務員がレースで1番気にしていたのは、スタートだった。G1を勝つには、好スタートが必須条件だからだ。しかしゲートが開くと、ナミュールは両前脚をあげてバランスが後ろに乗った状態となる。一瞬の出来事だったが、スタートで後手を踏んだ。 「やっぱり僕ではG1は勝てないんかな。今までも勝てなかったし……と。1番後ろの方を走る姿を見て、勝つのは厳しいなと思っていたんです」方から、康太騎手を背にナミュールは加速した。ソウルラッシュとの接戦だったが、脚色はナミュールに分があった。たちこめていた暗雲は吹き飛び、平川厩務員はついに悲願のG1を手にしたのだった。 「実際にG1を勝つと凄く嬉しいんだけど、ホンマかいな?という不思議な感覚になってね(笑)。瞬間的には、実感はありませんでした。でも、ナミュールの首に優勝のレイをかけてもらった時に、喜びが込み上げました。『やっと勝ったんだな』ってね」る。ご存知のように、坂路で乗る厩舎だ。ここ最近の高野厩舎は、坂路での時計の出し方に変化がある。これもナミュールのG1勝利につながっているのだろうか。 「開業して以来変わらないのは、馬は草食動物だという考え方です。飼葉にしても配合飼料ではなく、牧草の重要性を意識し続けています。坂路での集団調教も、群れで暮らす草食動物の特性から実践しています。変えたのは、調教時計の強さですね」シップを勝った時の当週の追い切りは、坂路で58秒4、ラスト1ハロンがしかし、普通なら勝てそうにない後高野厩舎は、開業して14年目を迎えナミュールがマイルチャンピオンの当週が57秒3の終い12秒4。エリザベス女王杯が54秒9の11秒9。秋華賞も54秒9の11秒9と、最終追い切りだけを見ても、2022年は今よりも全体で3秒以上速いのだ。 「調教での時計を遅くしたのは、レース本番をよりフレッシュな状態で出走できるようにするためです。毎朝、調教に向かう前に馬の表情をチェックし、なるべくストレスのないメニューに変えました。少しでも馬が気分よく調教できるように、と考えるようになったんです」2022年はスタニングローズとナミュールで、秋華賞をワンツーフィニッシュした。年間の勝利数は28勝。2023年はナミュールの連勝とジャンタルマンタルなどの活躍で35勝(取材時)と、成績は昨年を7勝も上回る。勝率、連対率、複勝率ともに過去最高の数字になっている。 「調教を軽くしたことで、コンディションを重視するようになりました。以前よりも管理馬を可愛がっていると思いますよ(笑)。その方が、レースでのパフォーマンスが良いと感じます」高野厩舎はG1勝利だけでもショウナンパンドラ(秋華賞、ジャパンカップ)、レイパパレ(大阪杯)、スタニングローズ(秋華賞)、ジャンタルマンタル(朝日杯フューチュリティステークス)と実績を挙げてきた。その成果に満足せず調教方針をブラッシュアップしてきたのは、管理馬をより気持ちよく走らせたいという一心にある。 「ナミュールは、これだけ走るのに脚元の丈夫な馬です。時計勝負でも馬場が悪くても、走ってくれます。タイキシャトルやキタサンブラックのようなチャンピオンホースの領域にはまだ到達していませんが、そんな資質を持った馬だと思っています。素晴らしい馬とのご縁をつないでくださったオーナーに、心から感謝しています」ノーザンファーム空港、ノーザンファームしがらきを経て高野友和厩舎へと結ぶキャロットクラブの連携、そして高野師、平川厩務員や小川助手から藤岡康太騎手へ。ホースマンの想いがつながったこの勝利を皮切りに、ナミュールはさらなる高みを目指して歩みはじめている。コンディションを重視する2112秒2と全体時計が遅い。安田記念時Writer profile 髙橋 章夫 Akio Takahashi1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を学び、写真事務所勤務を経て、ʼ97年にフリーカメラマンに。栗東トレセンに通い始めて26年。競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまで多数の騎手・調教師などトレセン関係者に取材した実績を持つ。馬体を見て走る馬を探すのが趣味。        

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