ECLIPSE_202401_18-21
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 「誰が空いている!?」昨年11月19日の朝、京都競馬場の舞台裏は騒然としていた。奔走していたのはキャロットクラブ関係者ら。この日のメインレース、第40回マイルチャンピオンシップ(G1)で、ナミュールに乗れる騎手を探すためだ。2R、2歳未勝利戦(ダ1800m)のスタート直後、ナミュールに騎乗予定だったR・ムーア騎手が落馬。検査の結果、ナミュールへの騎乗は不可となった。もちろん、JRAからファンに向けたムーア騎手の騎乗変更の発表は、まだ。管理する高野友和調教師不在の中、陣営は一刻も早く騎手を決める必要に迫られていた。 「京都競馬場への移動中に〝ムーア騎手落馬〟の一報を聞きました。関係者とやりとりを重ね、キャロットクラブさんの尽力の甲斐あって、私が京都競馬場に着く頃には藤岡康太騎手に決めることができたんです」到着するや、高野師は康太騎手を探し走った。検量室にいた康太騎手もまた、高野師の到着を今か今かと待っていた。互いにレースを控えていたため、打合せをするタイミングだけを急いで決めた。 「勝てると思うよ!」高野師は別れ際に告げた。その後、レースの合間を縫って話し合った。レース映像は、これまでのほぼ全てを見た。その時々のしぐさや右周りでのコーナリングの癖、起きた事象を確認していき、特にスタートに関しては入念にチェックした。ナミュールは時折、出遅れることがあったからだ。そして、高野師はこんな指示を出す。 「最終的に好スタートを切れたら中団で折り合うレースを、ゲートの出が悪かった場合は後方から差す競馬を、と。とはいえ後方からになると、乗っている騎手にしかわからない局面もあります。その場合は一任すると話しました。康太騎手は、豊富なキャリアをもつジョッキーです。彼の判断に任せるのが1番だと思ったんです」急遽、乗り替わりとなり、何の前触れもなく手綱を託された康太騎手もまた、高野師の熱い想いに応える決意をしていた。 「ナミュールについては、一緒に戦ったこともあります。3歳牝馬三冠レースでは常に上位に来ていた馬ですから、『かなり走る馬』なのはわかっていました」発走の時が刻々と迫る中、康太騎手は可能な限り情報を集めた。モレイラ騎手にも話を聞きに行った。モレイラ騎手は快く応じてくれ、通訳を介して「走る馬だが繊細な面もある。パドックから返し馬で、テンションが上がらないように注意したほうが良い。それが好走につながる」と教えてくれた。そして、康太騎手は16頭の強豪が集まるパドックで、ただ1頭の牝馬に跨った。モレイラ騎手からのアドバイスを受け、馬場入り後に向かう先は「左」と決めていた。京都の芝コースできることは、全てするJanuary 2024 vol.26418        Text & Photo: 髙橋 章夫─マイルチャンピオンシップ2023─ナミュールの激走を支えた男たち

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