ECLIPSE_202308_6-9
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ラッドスポーツの魅力が詰まった競馬の祭典でもあった。タスティエーラの父サトノクラウンは、ファーストクロップからダービーウィナーを誕生させた。思い起こされるのが、2015年のダービー。サトノクラウンは3着だった。タスティエーラを担当する高橋智大調教助手は父も手がけ、ともに雪辱を果たしたことになる。同レースを制したのは、やはり堀厩舎の傑作であるドゥラメンテ。一昨年に早逝したのが惜しまれるが、タイトルホルダー、スターズオンアース、リバティアイランドらを送り、種牡馬としてもすばらしい成績を収めている。この一戦は14着に終わったものの、後にチャンピオンの座を固めたのがキタサンブラック。イクイノックス、ソールオリエンスを輩出し、めきめきサイアーランキングを上げてきた。ハイレベルな世代でしのぎを削ったサトノクラウン、そして早くも有力後継となった若きプリンスも、さらに価値を高めていくに違いない。母系に目を向ければ、タスティエーラは芝のマイルで3勝したパルティトゥーラ(父マンハッタンカフェ)の初仔。祖母フォルテピアノ(父フレンチデピュティ)はダート短距離で3勝していて、堅実に走るファミリーである。王道路線へと進化を遂げた血の変遷をたどっても興味は尽きないが、母仔3代ともクラブの募集馬であり、祖母、母に続いて出資して、至上の夢をかなえた会員の方もいるという。なんとドラマチックなエピソードではないか。 「ダービー馬には称号にふさわしい一生を過ごしてほしい。まだまだ伸びる途上にありますので、幸せな引退後まで意識して、秋以降も細やかな状態把握のもと、適切なローテーションを組み、まっすぐ前進させたいですよ」と、堀調教師は表情を引き締める。フォルテピアノ(初期のピアノ)、パルティトゥーラ(イタリア語で楽譜)と紡がれたメロディーに乗って、この先もタスティエーラ(イタリア語でキーボード)は心に響くパフォーマンスを披露する。 9 ダミアン・レーン騎手、厩舎スタッフとともに。タスティエーラの向かって右側が高橋智大助手と堀宣行調教師Writer profile 小平 奈由木 Nayuki Kodaira長野県伊那谷生まれ。ローカル色が濃い血統ながら、姪に元宝塚歌劇団の千幸あき(最近、UMAJOになりました)も名を連ねるユニークなファミリー。競馬専門紙の記者、法人馬主のレーシングマネージャーなどを経て、フリーランスの編集者、競馬ジャーナリストとして活動中。極度の高所恐怖症であり、馬には乗れない。

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