ECLIPSE_202308_10-12
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2020年生まれ、現3歳世代の募集馬ラインアップが発表された時、ノーザンファームしがらき(以下NFしがらき)の小出雅之厩舎長は、1頭の1歳馬に目を奪われた。 「見栄えのいい、グッドルッキングホースでした。決して走ったから言っているわけではありません。サトノクラウン産駒に注目していたこともあり、できるなら自分も出資したいくらいでした。そうこうしているうちに、募集が締め切られてしまったんですけどね」現役時代にNFしがらきで自身が携わり、喜びも悔しさも味わったサトノクラウン。その初年度産駒として募集された馬こそが、父と同じ堀宣行厩舎に入った、タスティエーラだった。そして新馬戦快勝後の22年12月2日にNFしがらきに放牧に出され、そこで初対面することになる。 「父は牧場では全く手がかからず、競馬場に行けばスイッチが入って恐竜のようになる馬でした。牧場に戻ってくる時も、馬運車から降りてすぐはカリカリするのですが、10mくらい歩いたら『あ、ここは牧場だ』と気付いて、途端に牛みたいになる(笑)。そんなオンとオフがはっきりしている子だったのですが、タスティエーラは初めての環境とあって、少し神経質なところを見せていました」と、入場当初を振り返る。移動から2日ほどは気負う様子を見せていたが、徐々に落ち着きを取り戻して、乗り出しを開始。ただ、ハミ受けに難しいところがあり、跳びが大きいことからも、ゆっくり走るキャンター調整では、人の指示から時折はみ出して走る面を見せたという。そこで、スタッフの中で馬術にも長けている川北恭司が、乗り運動を担当した。 「初めて乗った時の第一印象は〝まだ教えることがたくさんあるな〟でした。前躯と後躯がうまくつながらず、股関節に硬さを感じたのです。また、あまり自分の秘めた力を表に出さないタイプで、この時点ではその後にダービーを勝つことはイメージできませんでしたね」と川北は語る。基礎的なことを教え込みながら丁寧に走りのバランスを整え、1月中旬にトレセンに送り出した。「併せると行きたがる面を見せるなど、まだ自在に乗れるというわけではなかったのですが、だいぶコントロールが利く状態で走れるようになっていました」。1カ月と少しの調整だったが、堀師から「デビュー前より心身のまとまりが良くなった」と入厩後の感想を聞き、牧場のスタッフは安堵した。NFしがらきからの放牧明け1戦目    ンの子どもで勝てたのは、感慨深かっの共同通信杯4着をへて、弥生賞ディープインパクト記念を制覇。見事に父子制覇を飾った。「サトノクラウ出会い異例のNF天栄調整August 2023 vol.25910Text: 刀根 善郎東京優駿制覇の舞台裏~鍵となった2週間~

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