ECLIPSE_202305_12-18
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走成績を詳しく振り返るのはあまりに野暮というものだが、ちょっとだけ配合を紐解いてみよう。父エピファネイアは2023年国内最高種付料を誇る名種牡馬。産駒デビューから3世代連続でJRA賞受賞馬を輩出し、4世代目産駒によって2022年JRA2歳サイアーランキングでは、勝利頭数部門と勝利回数部門で1位を獲得している。ポスト・ディープインパクトの最右翼、と目されている存在だ。母ケイティーズハートは慢性的ともいえる脚部不安等により仕上がりが遅れ、またダート適性も兼ね備えていたことから、ダート競馬ばかりを使われて15戦3勝。初勝利から数えて6戦で3勝目を記録したように、将来を嘱望される存在だったが、不運にも浅屈腱炎を発症して繁殖牝馬となっている。エフフォーリアは、その第3仔だ。エピファネイア×ハーツクライの本格配合で、サンデーサイレンス4×3。祖母ケイティーズファーストは年度代表馬アドマイヤムーンの祖母にもなっており、孫世代に2頭の年度代表馬を送り出した名牝だが、その現役時代はリステッドレース2勝という欧州の上級スプリンターだった。その母ケイティーズは愛1000ギニー優勝馬で、名牝ヒシアマゾンの母。この馬は有馬記念優勝馬ダイユウサクを輩出したノノアルコ産駒で、母の父も本邦輸入種牡馬のポリック。1968年に輸入されたポリックは、わずか2年間の供用で死亡してしまったが、当時とすればレベルの高い種牡馬で、クイーンSに勝ったヒダコガネの父となった他、ブルードメアサイアーとしてユキノローズ(サンスポ4歳牝馬特別など重賞2勝)や、シーブラック(札幌3歳S)などを送り出した。ケイティーズファーストのレースを実際に見たこティーズに、気が強いことで知られるシャーペンアップ系種牡馬クリスを配合したことで、一本気なスピード馬だったことが想像できる。しかし、繁殖牝馬としては、その「ポリック」と、ポリックとは1歳違いの全姉で仏ダービー、パリ大賞典に勝ち、凱旋門賞2着リライアンズの母「リランス」の全弟姉クロス4×3を持つことで、活力を得ているような気がする。クライとの配合で生まれた母ケイティーズハートは芝の中、長距離タイプに育つ可能性もあったと思うが、父から豊富なスタミナと底力を、母からパワフルなスピードを受け継ぎ、逃げ、先行力を武器とするダート中距離馬となった。これもまた納得できるところで、血統、配合の面白いところだ。人間の場合でも、両親を同じくする兄弟の場合はもちろん、一卵性双生児に生まれながら、その後の生活環境などによってまったくの別人格に成長する。それでも、やはり子は、どこか親に似るものだ。少なくとも筆者は血統とは、配合とは、そういうものだと考えている。とはないが、スピード豊かなケイ高いダート適性も併せ持つ、ハーツルーラーシップとの間に初仔を誕生させたものの、2年目産駒に恵まれなかったケイティーズハートにとって、勝負の3年目。その配合相手に選ばれたのは、スタミナと底力、そして何よりも常識に当てはまらないようなスケール感を持った、エピファネイアだった。それは、例えるならば「当てにいくのではなく、一発長打を期待した」配合。ケイティーズハートは見事、その期待に応えてくれた。ここからは、さらに私見だ。エフフォーリアは一見すると現代の主流血脈の結晶のようにも見えるが、キングカメハメハ系を筆頭とするミスタープロスペクター系、あるいはクロフネなどのノーザンダンサー系、シンボリクリスエス系を除くヘイルトゥリーズン系、あるいはナスルーラ系と配合相手を選ばない強みがある。その母系から、ダート競馬への適性がプラスされるのも心強い限り。個人的には、そろそろスピードを注入したい気もするが、産駒に期待するのはエフフォーリア自身と父エピファネイア、祖父シンボリクリスエスと母の父ハーツクライが2着に泣いた、日本ダービー制覇か。しかし、その一方で、多様性を持つ血統から配合次第で芝の中、長距離タイプから、ダートの短距離を一気に走り抜けるようなタイプまで、多様な産駒が期待できる。まずは、来春に産声を挙げる初年度産駒に注目したい。スタリオン到着前から、爆発的な人気を博していたエフフォーリア。このまま無事にシーズンを終えることができれば、初年度から相当数の産駒を残すことは間違いなく、2026年には、ファーストシーズンサイアーランキングの有力候補として、取り上げられることだろう。 「自分が競馬に興味を持つようになったのが、凱旋門賞。エピファネイアの仔なら、その壁を打ち破ってくれるのではないかと勝手に思っていて、エフフォーリアにはその可能性があるのではないかと思っていました。今は、エフフォーリアに対しても同じ思いです。チャンスはあるはず」口元をしっかりと引き締めた表情で、前田さんはインタビューを締めくくってくれた。May 2023 vol.25618Writer profile 山田 康文 Yasufumi Yamada1963年、東京都出身。生産地と競馬サークルを結ぶ情報紙「馬事通信」編集長。大学卒業後、サラブレッド血統センター入社。クラブ法人東京事務所長を経てフリーライターに。もう間もなく半数以上のダービーをリアルタイムで見ることになる。これ以上、日本の軽種馬生産農家が減らないことを祈りつつ、日々の取材活動に励んでいる。       エフフォーリア 種牡馬としてのこれから

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