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メハメハ、翌年にはディープインパクトと、立て続けにダービー馬を送り出していく。 「厩舎長となって間もない時期から、これだけの馬を任せてもらえてラッキーだったと思います。その中でも、ディープインパクトは取材など様々な場面でその思い出を語ったり、自分自身も振り返る時間が長かっただけに、今でも特別な馬ですよね」三冠を達成した2005年には流行語大賞の候補にもノミネートされるなど、ディープインパクトはまさに国民的な競走馬となっていく。現役引退後は、社台スタリオンステーションにスタッドイン。先に種牡馬入りしていたキングカメハメハと共に、日本競馬の生産界を世界レベルまで高めていくような産駒成績を残していく。 「現役時の競走成績だけでなく、種牡馬成績も含めて、物凄い馬だったと思います。キングカメハメハも優れた産駒を数多く送り出してくれましたし、改めてこの2頭に携われたことには感謝しかありません」教主任と同様に、2016年から育成主任となり、現在は2つの厩舎の管理を任されている。 「主任となってからは個々の馬を管理していくというよりも、厩舎長や厩舎スタッフが、働きやすい環境作りを意識して取り組んできました。厩舎長には『自分がやりたいように管理してくれたらいいよ』と言っていますが、『ただ、結果は出してくれよ』とハッパもかけています(笑)」路小屋で行われた取材の合間に管理する厩舎の育成馬が坂路を駆け上がってくると、何か気になることがあったのか、即座に馬の元へと近寄っていく。同じ組で騎乗中であった厩舎長に指示を伝えると、また、取材の続きをするために戻ってきてくれた。 「自分も厩舎長となった当初は苦労しました。それだけに今、厩舎長を務める彼らにはアドバイスも含めて、できる限りの手助けをしていきたいですね。調教主任としては、勝率や出走率ノーザンファーム早来の他2名の調そう話す横手調教主任であるが、坂を高めていくといった数字の目標もありますが、個人的には目標としているレースはないと言いますか、ノーザンファームの関係馬が走っているレースは、全部勝って欲しいと思っています。それを叶えるべく、スタッフの誰もが自発的に努力をしていくような組織となることを目指しています」 『銀の匙』の主人公・八軒勇吾は、高校卒業後、帯広畜産大学がモデルとされる大蝦夷畜産大学へと進学。大学を卒業後には、養豚の勉強のためにロシアへと渡るところで、物語は終わる。帯広農業高校を卒業してからの横手調教主任の人生は、それ以上にドラマティックだと言えるのではないだろうか。 「まさか地元を離れてから、ずっと北海道にいるとは思ってもみませんでした。その中で、多くの馬や人に出会わせてもらいましたし、そう考えると、人生って分からないものですね」 と笑顔を浮かべる横手調教主任。フィクションを超えたノンフィクションのドラマは、今後も多くの名馬を輩出しながら続いていくのだろう。現在のノーザンファームの隆盛は、牝馬の活躍によるところも大きい。その意味でもノーザンファーム早来で、牝馬調教主任を担っている日下和博氏は、その立役者とも言える。 「調教主任となってからは管理する頭数が多くなって、さすがに全ての馬の状態を常に把握し続けるのは難しくなりました。それぞれの厩舎の厩舎長がしっかりと管理してくれていますし、『これ』が自分の仕事をフォローしてくれています」と、会社から支給された『これ』こと、iPadの画面をコンコンと叩く。道東の別海町で学生生活を送った日下調教主任だが、その当時は馬とは全く無縁であったと言う。 「高校では農業機械科を専攻したのですが、そこではもっぱらトラクターなど、機械の勉強をしていました」就職先を決める際に、何となく受け         ずぶの素人が、馬の牧場に入ってしてみたという旧社台ファームに入社。最初は繁殖厩舎に配属されたが、その数カ月後には育成厩舎への異動が決まる。 「農業の機械以外は何も分からないまった。乗馬経験がないどころか、もちろん馬具に触ったこともないのに、いきなり競走馬に乗せられたわけですから、当時は本当に大変でしたよ」ただ、あまりにも馬を乗りこなせない自身に対する悔しさが、騎乗技術を高めようという気持ちへと繋がっていく。この頃、練習馬として跨っていたのが後に牝馬二冠馬となり、そして、ハープスターの祖母としても名を残すことになるベガだった。 「馬乗りがまともにできるように日下和博調教主任January 2023 vol.25220横手 裕二 Yuji Yokote1969年生まれ。神奈川県藤沢市出身。中学卒業後、帯広農業高校へと進学。馬術部で3年間乗馬経験を積み、卒業後、旧社台ファーム(現ノーザンファーム早来)へ入社。当初は牝馬の騎乗スタッフだったが、29歳の時に牡馬厩舎の厩舎長となる。厩舎長3年目にジャングルポケットが日本ダービーを勝利、その後もキングカメハメハとディープインパクトもダービーを制し、引退後に種牡馬となった2頭は、共にリーディングサイアーにも輝いた。2016年に調教主任となってからは、2つの牡馬厩舎を管理している。─an expansion of TRAINING STABLE Review─NF早来 林 宏樹・横手 裕二・日下 和博 調教主任

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