多いときには、厩舎の半数が近藤会長の所有馬だったこともあります。頭数が多いと必然的に馬見せの時間も長くなるのですが、一頭一頭をじっくりと見ていらして、とても熱心でいらっしゃったことも印象に残っています」厩舎長としては2頭のダービー馬(ロジユニヴァース、ドゥラメンテ)を送り出しているが、それぞれに思い出があると林調教主任は話す。 「ロジユニヴァースのダービーでは競馬場に応援に行かず、その頃、自分の中で思っていたゲン担ぎをするべく、車の中でテレビを見ていました。そこまでしても勝ちたいと思ったのがダービーでしたし、物凄く嬉しかったのを覚えています」た当初から、ダービー制覇を目標に据えてきた。 「旧社台ファーム時代から培われてきた血統馬でもありますし、ドゥラメンテ自身も物凄いポテンシャルを秘めた馬でした。その一方で、人の手を煩わせるような気性の難しさもあっただけに、入厩時には一緒に馬運車に乗り込んで、厩舎まで送り届けていました」任は問題があったり、手がかかる馬に関しては、厩舎長時代から自らが入厩時の輸送に同行するようにしていた。 「その馬の管理を任せてもらった以上、トレセンに着いて馬運車を降りるところまで見届けたいとの思いがあります。調教主任となってからも、それは変わらないですね」 ている。いつの間にか好きになっていたという馬乗りも同様であり、管理をする各厩舎の中で、毎日2〜3鞍は調教に跨っ 「もう54歳にもなりましたので、厩舎長にはなるべく大人しい馬に乗せてくれと頼んでいます(笑)。現在、自分が担当するのは4厩舎で、120頭ニューなどは各厩舎長に任せています。その中で、馬の状態を見極めながら、本州のノーザンファーム天栄やしがらき、そして、トレセンにいつ送り一方、ドゥラメンテは管理を任されドゥラメンテに関わらず、林調教主以前から変わらないことと言えば、ほどの馬を見ていますが、調教メ出すかといった移動に関わる判断を、調教主任として自分が行っています」今後の目標を尋ねると、「管理をする厩舎の育成馬での、日本ダービー制覇ですね」との答えが返ってきた。 「ノーザンファーム早来全体としても、ドゥラメンテ以来ダービーを勝てていません。できることなら、ドゥラメンテといった育成を手掛けた種牡馬の産駒で、それを叶えられたら凄く嬉しいですね」と語る林調教主任。その活躍ぶりを、天国の吉田善哉氏も笑顔で見守っているに違いない。 『銀の匙 という、北海道の農業高校を舞台とした漫画がある。主人公の八軒勇吾が、札幌の中学から大蝦夷農業高等学校という、北海道帯広農業高等学校をモデルにした高校へ進学するところから、この物語は始まる。筆者は初めて『銀の匙』の漫画を読んだ時、その主人公の姿が、同じように学区外から北海道帯広農業高等学校へ進学してきたと聞いていた、ノーザンファーム早来の横手裕二牡馬調教主任の姿と重なって見えた。 「出身は神奈川の藤沢市となります。帯農(帯広農業高校)に進学したのは、北海道への憧れがあったからだったのですが、当時は学区外から来る生徒が珍しく、周りからは向こうで何かあっSilverSpoon』たか?とも言われました(笑)」酪農科に入り牛の勉強をしようと思ったが、部活動で馬術部を選んだことが、その後の人生を一変させる。 「馬術部といっても、早朝に隣の帯広畜産大学の馬場に馬を連れていって、大学生に指導してもらう程度でした。乗り続けていくうちに、馬の仕事をしたいと思うようになりました」高校3年となった時、その思いを理解していた進路指導の先生から、旧社台ファームの見学を勧められる。 「見学に行った時に車で案内してくれたのが、吉田善哉さんでした。善哉さんには今のノーザンファーム早来の敷地など、様々な場所を見せてもらったのですが、競馬をあまり知らなかった当時の自分でも、そのスケールの大きさに圧倒されたのを覚えています」そして、高校卒業後に旧社台ファームへと就職すると、乗馬経験が認められる形で、入社早々に育成馬の調教厩舎へ配属された。 「牝馬厩舎に配属されましたので、そこから10年間はほぼ牝馬に跨ってきました。30歳を迎える前に厩舎長にならないかと言われたのですが、それが牡馬厩舎であったのは、まさに寝耳に水でした」ただ、牝馬を担当する中で培われてきた経験は、牡馬の管理にも活かされた。厩舎長となって3年目には、育成馬のジャングルポケットが日本ダービーを優勝。その3年後にはキングカ横手裕二調教主任19林 宏樹 Hiroki Hayashi1968年生まれ。北海道浦河町出身。生家はメジロマックイーンやサッカーボーイなどが繋養されていた、社台スタリオンステーション荻伏となる。高校卒業後に旧社台ファーム(現ノーザンファーム早来)へ入社。27歳の頃に厩舎長となり、当時は牡馬と牝馬双方の管理を行っていた。厩舎長時代にはロジユニヴァース、ドゥラメンテと2頭の日本ダービー馬を育て上げただけでなく、ブラックタイドやシルバーステートといった、数々の種牡馬も送り出してきた。2016年に調教主任となり、現在は3つの牡馬厩舎を管理している。
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