gant upset! 「Marche Lorrane tryng to go for a (マルシュロレーヌが大大番狂わせにまっしぐらだ)」4コーナーをひとまくりしたマルシュロレーヌが直線で堂々と先頭に立つと、実況音声とともに場内のボルテージが一気に高まる。まさか、こんなシーンが見られるとは。ファインダー越しにこちらに向かって迫ってくるマルシュロレーヌに、シャッターボタンに掛けた人差し指にいつも以上に力が入る。ゴールの瞬間、勢いは内から迫ったダンバーロードのほうだった。しかし ─ iii アメリカの競馬の祭典であるブリーダーズカップは、今年で創設₃₈回目を迎えた。今では2日間で₁₃のG1と1つのG2の合計₁₄競走が、ブリーダーズカップの名を冠して行われている。は生産者という意味の単語が付されているように、登録されている種牡馬の種付け料が賞金の原資で、原則として、この登録種牡馬の産駒のみが出走の対象となっているのが大きな特徴である。登録されていない種牡馬の産駒にも追加登録料という形で門戸は開かれているほか、近年は追加登録料などを免除する指定競走「ブリーダーズカップチャレンジ」が、世界各国で行われるようになった。での開催となっており、今年の舞台は西海岸のデルマー競馬場。太平洋に面したリゾート地で、メキシコ国境にも近いことから、₁₁月初旬は非常に過ごしやすい気候だ。シック、芝のターフとマイル、ダート短距離のスプリント、2歳戦のジュベナイルとジュベナイルフィリーズと並んで、創設当初から行われているのが、3歳以上牝馬によるダートの一戦、ディスタフである。一時期「レディーズクラシック」と名称が変更されたこともあるこの競走は、₁₃戦無敗馬パーソナルエンスン、カナダ三冠馬ダンススマートリー、ゼニヤッタやロイヤルデルタ、ビホルダー、モノモイガールのほかに、日本で繫殖牝馬となりルージュバックやケイブルグラムの母となったジンジャーパンチといった名前ブリーダーズ、つまり競馬において毎年、全米各地の競馬場で持ち回りが勝ち馬として並ぶ。この歴史ある競走に、今年はマルシュロレーヌが出走。日本調教馬にとっても、初めての出走となった。所属する矢作厩舎は今や日本国内だけでなく、世界を見渡してもボーダレスな厩舎だと言えよう。今年だけでも、サウジアラビア、ドバイ、香港、フランス、そして今回のアメリカで管理馬を出走させ、実際に相応の結果に結び付けている。矢作調教師がそうした戦略家であることから、今回のマルシュロレーヌがアメリカに遠征することが報道された際も、ラヴズオンリーユーの帯同馬的な役割を担わせるというのが主たる狙いではないのだろうかと思ったのが、正直なところだ。いやはや、同じノーザンファームの生産馬とはいえ、母体が異なるクラブの馬を勝たせるためにここまでするのか、と。ただ、これは半分正解、半分ハズレであった。正解の部分は、マルシュロレーヌがラヴズオンリーユーを支えるだけでなく、ラヴズオンリーユーもまたマルシュロレーヌも支えるという相互関係にあったことだ。ラヴズオンリーユーは、春のドバイから香港への転戦の中間で、1頭だけになってしまったことが少なからず調整に影響を及ぼしそうになったという。それを軽減するために、アメリカ遠征では帯同馬が必要という判断になったが、実はマルシュロレーヌにとっても1頭での遠征は心もとないものであったようだ。ブリーダーズCに先立つことひと月前、フランスに遠征したエントシャイデンに同ブリーダーズカップディスタフ遠征記January 2022 vol.24012₁₄競走のうち、メインであるクラマルシュロレーヌ北米競馬の祭典ブリーダーズカップに名を刻む
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