ECLIPSE_202201
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同馬の父はオルフェーヴルであり、その父は、日本産馬として初の海外G1制覇を果したステイゴールドである。日本ではG1制覇がないのに、海外で2重賞を制し、究極の外弁慶と称されたのがステイゴールドだった。その産駒にも、シンガポールでデビューし彼の国のゴールドCを3度制したエルドラドを皮切りに、₁₀年のG1凱旋門賞で2着となったナカヤマフェスタ、₁₂年・₁₃年とG2フォワ賞を連覇した他、G1凱旋門賞で2年連続2着となったオルフェーヴル(言うまでもなくマルシュロレーヌの父)、とG1香港カップのダブル制覇を果たしたウインブライトなど、海外で良績を残した馬が多い。日本の競馬業界内では、悲願の凱旋門賞制覇を果たすとしたら、ディープインパクトではなく、ステイゴールドの血を引く馬ではないかと、さかんに言い交されたものである。舞台はアメリカで、路面はダートではあるが、マルシュロレーヌに潜む、アウェイでこそ本領を発揮する血脈が、カリフォルニアの風に吹かれて確変しないものかと、ひそかに期待はしていた。今年のブリーダーズCに、日本は7頭という過去最大の代表団を送り込んでいた点も、心強い材料だった。馬は集団動物であるゆえ、海外遠征は単独で挑むよりは、複数で臨む方が好結果を生むとは、かねてから言われていることである。今年のブリーダーズCに挑んだのかと言えば、これは7頭を管理する3名の調教師が異口同音に語っているように、今年の開催地が西海岸のデルマーであったからだ。日本からは近く、欧州からは遠いのが西海岸で、ましてやデルマーは、北米の競馬場の中でも小回りでコーナーがきつく、なおかつ芝の路面が固いことで知られているトラックである。すなわち、欧州調教馬にとって難易度が高いのがデルマーで、ここは打って出る好機と捉えた調教師さんが複数おられたのも、頷けるのである。だがその一方で、アメリカのダートと日本のダートでは路面の質が異なり、砂よりは土に近いデルマーのダートを、マルシュロレーヌが巧くハンドリングできるかどうかは、全くの未知数であった。ばすのがアメリカのダート戦で、激流と言っても過言ではない、日本では経験したことのない速い流れに、戸惑うことなくついていけるかどうかは、おおいなる懸念材料だった。ついて行けなければ、日本とは質の違うキックバックを浴びることになり、これに対処できるかも不安材料となる。2400m路線の凱旋門賞に匹敵する格を持つのが、牝馬ダート中距離路線におけるBCディスタフだけに、4つなぜ、これだけ多くの日本調教馬が、なおかつ、テンからビュンビュン飛相手関係についても、別稿で詳しく記述されていると思うが、芝のG1を含めて直前5連勝中だったレトルースカ(牝5)を筆頭に、そうそうたる顔ぶれが揃っていた。戦況としては、きわめて厳しい立場に、マルシュロレーヌは置かれていたのである。そして、レースは案の上のハイペースとなった。逃げたプライベートミッション(牝3)が刻んだラップは、最初の2Fが₂₁秒₈₄、半マイル通過が₄₄秒₉₇である。2レース前に行われたBCスプリントが₂₁秒₉₁、₄₄秒₁₁だったから、ディスタフのラップがべら棒に速いものであったことがおわかりだろう。そんな中、前半は9番手で脚を溜め、3コーナーから一気に仕掛け、4コーナーの途中で先頭に立ったのがマルシュロレーヌである。3コーナーから自力で勝負に出て、ゴールまで頑張り切るというのは、アメリカで本当に強い馬が見せる競馬ぶりで、ダンバーロード(牝5)のゴール間際の追撃を封じたマルシュロレーヌは、アメリカの競馬ファンを熱狂させる名馬のパフォーマンスを、ブリーダーズCという大舞台で完遂して見せたのである。全米の競馬界と生産界が衝撃に震えた、驚天動地のパフォーマンスであった。歴史的快挙を成し遂げたマルシェロレーヌとその陣営には、アメリカはもとより世界の競馬関係者とファンから、最大級の賛辞が送られている。(合田直弘)             29Team B. Cox(シーデアズザデビル/エッセンシャルクオリティ/ニックスゴー)₁₉年にG1クイーンエリザベス2世C

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