マルシュロレーヌは、4歳秋から5歳夏にかけてダート交流重賞を4勝することで、我が国の牝馬ダート戦線におけるヒエラルキーの、最上層に昇ってきた馬である。同馬に、JRAにおけるダート重賞制覇の実績はない。こういう戦歴を持つ馬による北米ダートG1参戦は、これまでほとんど見られたことがなく、NARで積み重ねた実績がアメリカのダート路線でどこまで通用するかは、今後の指針とする上でも、検証しなければならない事象だった。戦績だけではく、マルシェロレーヌの血統にも、おおいにそそられるものがあった。同馬の牝系については、別稿で詳しく述べられていると思うが、えた₁₀月₂₉日(金曜日)の午後、筆者は東京・新橋の日本中央競馬会分館内にある、「月刊誌・優駿」の編集部を訪れていた。「これからの競馬」をテーマに、競馬の未来を様々な角度から展望する企画を短期集中連載している。2021年うために」で、私以上に幅広い視野で海外競馬をご覧になっているサラブレッド血統センターの秋山響氏と、キャリアだけは長い筆者が、これから日本のホースマンはどのレースをターゲットとし、どのような戦略をもって臨むべきかを主題に、対談を行ったのである。に、流れとして「このレースはハードルが高い」という話になり、エプソムダウンズの英ダービー、チャーチルダウンズのケンタッキーダービー、そして、今年はデルマーが舞台となるブリーダーズCクラシックは、日本馬にとって難攻不落で、ここを勝つに至るまでには相当時間がかかりそうという見解で、秋山氏と私は一致した。その上で、狙うべきはこの国のこのレース、………。ブリーダーズCの開催を翌週末に控今年、創刊₈₀周年を迎えた優駿は、どこをターゲットにすべきか、の前という話に入って行ったのだが対談終了後、秋山氏や編集部の皆さんとの雑談の中で、筆者がポロっと漏らしたのが「まさかとは思うけど、来週末で情勢が一変しちゃったりしてね」というひと言で、これに応えて秋山氏は「そうなったら、対談録り直しですよ」。これに対し編集部さんは「ハハハ」と、困ったような笑いを浮かべるばかりだった。翌週末、その「まさか」が起きたのである。ブリーダーズCのメイン競走となるクラシックではなかったが、ダートのカテゴリーでは準メインとなる、牝馬ダート中距離路線における北米の最高峰であるディスタフを、キャロットクラブが所有するマルシュロレーヌ(牝5)が見事に制したのである。相当時間がかかりそうと言った目的地の、ほんのすぐ際まで、わずか1週間余りで到達してしまったわけだ。さすがに、秋山氏と筆者が再度集まって、改めて対談する時間の余裕はなかったから、秋山氏と編集部、筆者と編集部がそれぞれメールでやりとりを行い、部分的に修正された原稿が優駿₁₂月号には掲載されたはずだ。オリジナル原稿のどこがどのように修正されたのかは、皆様ぜひ、優駿₁₂月号をお手にとって、想像を巡らせていただきたい。言い訳がましいことを書かせていただければ、筆者はマルシェロレーヌのBCディスタフ出走を、非常に興味深い挑戦と捉え、果たしてどこまでやれるか、結果をおおいに楽しみにしていた。そこに、嘘、いつわりはない。全米の競馬界と生産界が衝撃に震えた2021ブリーダーズCディスタフJanuary 2022 vol.24028 ₁₂月号のテーマが「これから世界と戦マルシュロレーヌ北米競馬の祭典ブリーダーズカップに名を刻む
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