ECLIPSE_202201
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 「これ、どうするんだろうな」というのが、マルシュロレーヌを見ての感想だった。前例のない格上挑戦に臨む本馬を米国流に従い前々で競馬させるのか、控えて脚を溜めるのかと考えたのである。第₃₈回ブリーダーズカップ(以下BC)開催地のデルマー競馬場にはグランドスタンドの右端にレシービングバーン(待機厩舎)という場所があり、各レースの出走馬は一旦ここに集められ、個体識別の最終チェックを終えてからパドックへ移動する。カリフォルニア州では予防対策の移動制限がなくなったとは言え、完全にコロナ禍を克服したわけではない。BCは商談や社交の場でもあるが、翌週のセリ業務を控える身としては極力感染リスクを回避したい。そこで私はマスク未着用の関係者で溢れるパドックを避け、出走馬をレシービングバーンで見ることにしていた。BC最終日である₁₁月6日土曜日。マルシュロレーヌの激走に先立つ第7競走BCフィリーアンドメアターフ(3歳上牝・芝2200m)でラヴズオンリーユーが、日本馬として初めてBCで優勝した。素晴らしい快挙だが、近年の日本競馬のレベル向上や遠征先での芝馬の活躍を見ればBCで日本調教馬が勝つのは時間の問題と言える状況で、当日米国の有力紙デイリーレーシングフォームも直前の予想で欧州馬ではなく同馬を優勝候補として予想を公開した。そうしたこともあり同馬の優勝は「来るべきものが来た」という捉え方もできるし、レース後のスタンドの雰囲気もそれに近いものであった。そして日米両国であまり注目されていなかった、マルシュロレーヌのBCディスタフ(3歳上牝・ダート1800m)を迎えるのである。から施行されている、言わばこの開催の根幹をなすカテゴリーで、牝馬のダート戦では世界最高峰のレースである。歴代勝ち馬の中にはゼニヤッタ、ビホルダー、ダンススマートリーなど同時期の牡馬をも蹴散らした名牝の名前がずらりと並び、世界最良のダート馬生産に誇りを持つ米国の競馬関係者にとっては、BCクラシック(3歳上・ダート2000m)とともに最重要レースとしての位置付けである。実際夏季北米競馬の激戦区であるデルマー、サラトガ(ニューヨーク州)開催では、G1級の牝馬に関してはディスタフから逆算してローテーションが検討されているし、ケンタッキーオークス(G1、5月第1金曜開催)を見送る3歳牝馬陣営も、ディスタフを目標に据えるほどである。加えて近年「コマーシャルオーナー」とも呼ぶべき人々が増えてきたことも、BC牝馬戦激化の要因になっている。というのは米国では以前、中期育成中の牝馬(離乳当歳馬、1歳馬)の購買者は、引退後そのまま繁殖牝馬として馬主が持ち続けるケースが殆ど同競走は1984年のBC開催初年であった。血統さえしっかりしていれば仮に購入馬で賞金を獲得できなくても、産駒を走らせたり売却したりするなどして長期的に競馬を楽しめるからだ。しかし、最近は活躍馬の引退直後または現役中にセリで売却するケースが増えている。このようにレース直後に繁殖セリが行われるタイミングで開催されるBCは、牝馬の価値向上の手段としての側面が大きくなり、上場予定牝馬はBC直後にケンタッキー州まで空輸できるように手配されている。つまり、BCに一か八かの一発勝負をかけてくる陣営が増えてきたのだ。そんな背景を踏まえて、日本馬BC初制覇の余韻を拭い切れないまま、第9競走前にレシービングバーンへ向かった。私はマルシュロレーヌのことをあまり知らず、そして日本での戦績からBCでの可能性を考えられなかった。それはそうだろう。前走は勝ったとはいえ約3カ月前の門別での地方交流競走という初のケースで、マルシュロレーヌが実際米国で戴冠した後もピンと来るローテーションではない。米国人にとっては尚更の疑問で、これまでの日本馬のダート戦の苦戦を思えば、本馬の単勝が約₅₀倍という低い支持は仕方ないことだろう。ただ冒頭の疑問を持ちながら、私は馬体面で見劣っているとは感じず、しかし「ひょっとして」という気持は最後まで持てずに「勝てなくても大きく負けないでほしい」と願っていた。そして、あの驚愕の結果である。ラヴズオンリーユーが優勝したとは言え、米国の競馬関係者にしてみれば「それは芝の話、ダートでは日本馬は相手にならない」と考えていただろう。スタンドの騒めきがしばらく止まない。そしてそれが、日本が米国の「お客さん」から「競合者」に変わった瞬間でもあった。指定競走勝ち馬に補助金が支給されるとはいえ、3月のドバイ国際や師走の香港国際とは異なり、BCは招待競走ではない。2ヵ月後のエクリプス賞(日本のJRA賞に相当)も視野に入れた、完全なバトルである。これまで₃₇回行われてきたディスタフでは3頭がアルゼンチン産馬で、しかしこの3頭も含めた₃₆頭が米国調教馬である。そんな米国の牙城のひとつを米国、驚愕の一敗January 2022 vol.24026     マルシュロレーヌ北米競馬の祭典ブリーダーズカップに名を刻む

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